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“ものづくりのものがたり”にふれる──桐生ファッションウィーク2022

日本を代表する織都・群馬県桐生市で、2022年10月28日から11月6日にかけて、桐生ファッションウィーク2022が開催された。市内各地で展示会やワークショップが行われ、作家と近い距離で語らい、手仕事の価値にじっくりと触れることができる。


本記事では、そんなファッションウィークに足を運び、桐生のデザインとクラフトを五感で体験してみた。



自分だけの特別を見つける──桐生の企業いいもの展

かつて蔵として使われた、レンガ造りの瀟洒な建物「有鄰館」。ファッションウィークの期間中は、登録有形文化財の指定も受けるこの場所に、桐生よりすぐりのブランドが集まってくる。




11月2日から6日にかけて催されたのは、「伝統と革新 桐生の企業いいもの展」。繊維産業をはじめとする桐生のものづくりをリードする8つの企業や工房が集まり、磨き上げられた技術と美しいデザインを楽しむことができる。会場は有鄰館のなかでもノスタルジックで暖かい雰囲気の漂う〈味噌・醤油蔵〉だ。


出展していた「新伊美術織物研究所」は〈絵画織〉で名高い。絵画織は、32パターンの織組織を駆使する織り方で、絵画の濃淡やタッチを見事に再現することができる。江戸時代の風景画や歌川広重の絵画を正確に落とし込む技術は必見だ。ブックカバーなど、小物も販売しており、手に取りやすい。



フリーマーケットのように買い物を楽しみ、日替わりでおこなわれる展示やワークショップに参加する。有鄰館で歴史ある蔵の雰囲気を感じながら、自分だけの「特別」や「お気に入り」を見つけたい。


和洋折衷の明治建築で、歴史に思いを馳せる──旧須藤邸

ファッションウィークは、桐生の美しい建築に触れる機会でもある。期間中に一般公開された「旧須藤邸」もそのひとつだ。旧市街地にある和洋折衷の邸宅は、桐生の織物産業を支えた旧金善織物が、明治時代に事務所兼居宅として建築したもの。


家に上がって、まず印象的なのはピアノの置かれた広い洋広間。吹き抜けになっていて、2階を見上げることができる。




広間では窓飾りや蛇口など、あちらこちらにステンドグラスやハイカラな模様が輝く。細部にまでこだわりが詰まった空間で、お屋敷全体が宝箱のよう。きっと、ここでパーティーや演奏会が開かれていたのかな。そんなふうに思いを馳せる。



2階に上がって、洋広間の奥へと進んでいくと、和室の部屋が現れる。美しい屏風や掛け軸があって、日本の伝統文化を全身で感じられる。

障子を開ければ桐生の風景を一望でき、開放感たっぷりだ。



現在では成人式の撮影などでも使われ、桐生に暮らす人々を折りに触れ見守る旧須藤邸。和と洋が入り交じる、明治の空気を感じてみてはいかがだろうか。



新しいクラフトを探して──蔵KURAハンドメイド

ふたたび有鄰館周辺に戻ろう。このあたりは約400年前頃からある町で、重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている。蔵や長屋が今も残されており、それらを使ったさまざまなイベントが開かれている。そのひとつである蔵KURAハンドメイドは有形文化財の蔵で毎週第一土曜日に催されている展示で、全国各地のハンドクラフト作家が集まる。




初めに伺ったのは、蔵KURAハンドメイドを主催されている増田久香さん。群馬の絹糸と桐生織金銀糸を使用したアクセサリー「MiKMoK企画」を手がけている。ブースには素敵な色合いのピアスやイヤリングが並んでいる。素敵な色合いの秘密は、群馬オリジナル蚕品種・「ぐんま200」の繭を一つ一つ手作業で生糸にし、染め上げていること。繊維の町・桐生だからこそできる、丁寧な職人技による艶やかな色合いは必見だ。MiKMoKの商品は、日本遺産ロゴ認定商品・ぐんまシルク認証商品として登録されており、桐生のお土産にもぴったりだろう。



続いて紹介するのは、新進気鋭のマクラメアクセサリー作家・尾池崇さん。桐生で宝石の卸売をする実家に生まれた尾池さんは、「若者に手に取ってもらえやすい宝石を」という思いでマクラメアクセサリーを手がけるようになったそうだ。マクラメは何本かの糸や紐を結び合わせ、編み込む手芸の技法。マクラメの装飾が綺麗な宝石をさらに輝かせ、唯一無二のものに仕上がっている。


ハンドメイドアクセサリーを手がけるkey’s roomは、カラフルで斬新なデザインが特徴的だ。「新しいものに出会うワクワク感を味わってもらいたいですね」。そう語る言葉通り、展示ブースには同じものは二つとない色合いのヘアクリップや、大ぶりで耳にかけるイヤーカフなどが並んでいる。宝石箱を開けたような雰囲気で、思わず気持ちが弾む。



レトロな蔵で、新たなクラフトと交流が生まれる蔵KURAハンドメイド。手作りの作品が好きな人なら、ぜひとも足を運んでほしい。


身近な桐生の魅力を感じる──のんびりマルシェ

明治時代からの長屋を改装した店舗兼イベントスペース「カイバテラス」。火災をきっかけに再建し、2020年にオープンしたこのスペースでは、地域の新鮮な野菜が販売され、書店「本と雑貨 百ー百ー堂」がおしゃれな雑貨や感度の高い書籍を揃えている。日替わりのお弁当は桐生の人気飲食店によるもので、地元の方々にも好評を博している。



週末には店内外に出店者が集まり、おいしい食事やおやつ、手づくり雑貨の販売などを行う「のんびりマルシェ」が開かれている。ファッションウィーク中のマルシェでは、真鍮アクセサリーを手がけるiroiroによるワークショップや、キッチンカーによる唐揚げや窯焼きピザ、アジアングルメが展開された。



料理はどれも本格的で、桐生の食の豊かさを味わえる。店内のお座敷で食事をしていたら、店長の大谷知子さんと話すことができた。「私自身が食べて、美味しかったお店の方々をお招きしているの」。自ら足を運び、声をかける大谷さんのフットワークの軽さが、マルシェの魅力につながっている。



裏桐生で過ごす、癒やしの時間──藺草茶寮

蔵から出て数分ほど本町通りを走り、細道に入れば、築100年の古民家「四辻の齋嘉」が現れる。その離れの浴場をリノベーションした店舗が「藺草茶寮」(いぐささりょう)だ。


茶寮にお邪魔すると、フワッと心地良く藺草が薫り、フローリングに和モダンで美しい青の畳が敷かれている。「畳を使いたいけれど、洋室だから使えない。そんな声をお客様から聞くんです。そこで洋室に調和する畳を作りたくて」店長の豊村一徹さんはそう話す。



藺草でいっぱいの茶寮は、どこか暖かい。ほっと一息していると、藺草のお茶とカモミール焙煎を振る舞ってくださった。飲んでみると、食物繊維が豊富な藺草の特徴を活かした、すっきりとした味わい。健康的で、身体が浄化されるよう。小さなお子様でも美味しく飲めるという。



帰る道すがら近隣のおすすめスポットを尋ねると、向かいにあるセレクトショップ「Bellùria別邸 日美日美」をレコメンドしてくれた。元々はレースの工場だったという桐生らしい洋館造りの建物は、大正ロマンに溢れる。豊村さんは、同店のオーナーに誘われて桐生へ移住を決めたのだと教えてくれた。


落ち着いた時間が流れるこの地を、豊村さんは「裏桐生」と呼ぶ。藺草の薫りに包まれながらゆったりとお茶を飲む。そんな裏桐生のスタイルは、日々の疲れを癒やすのにうってつけだろう。


──美しい町並みと、豊かな自然を大切にする暮らし。そんな環境で育まれる、手仕事の価値。桐生ファッションウィークには、この地に生きる人々が紡ぐ“ものづくりのものがたり”が溢れている。


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