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「個性」がつながり、ぶつかり合う場所を──桐生テキスタイルマンス × 国際ファッション専門職大学・平井秀樹教授ゼミ

群馬県桐生市は、繊維の産地として、日本でも珍しい地域だ。自転車で行けてしまう距離に、紡績、染色、刺繍、織りなど、個性豊かな作り手が集まり、繊維にまつわる工程のほとんど全てが詰まっている。


織都として1300年以上の歴史を歩む桐生には、培われた技芸や文化がある。それだけではなく、伝統を捉え直し、職人たちとつながりながら、次の展開を模索する新しいクリエイターたちもいる。



「桐生テキスタイルマンス」(以下、KTM)の発起人で、コピーライターでもある星野智昭さんはいう


「職業柄、一言で魅力を表現したいと考えたこともあったんですけど、全然できないんです。桐生の歴史的な建築にしても、大正・昭和・平成の色んな時代のものがモザイク状にあるし、繊維産業にしても、色々な種類の工房があって、しかも皆さんすごく個性が立っている。そのカオティックさが面白みだなあと思います。桐生の魅力がどこにあるか、その謎は短い言葉では解けないんです」


元々東京で働いていた星野さんは、7年前にUターン。それから3年後にKTMを立ち上げ、桐生の作り手たちとともに、イベントやワークショップ、展示といった活動を始めた。星野さんのつながりをいかして、アメリカのポートランドで開催されたテキスタイルマンスと連携し、桐生のクラフトを集めたPOP UPを開催したこともある。


星野さんがKTMで大切にしているのは、「つながりの深度」だという。この日取材した「桐生ファッションウィーク2022」での展示からも、それを感じることができた。桐生の作り手によるものづくりワークショップや物販、国際ファッション専門職大学の学生による作品展示とDJブース、「きものかわいい撮影会」やトークショー。いくつも立体的に組み合わされた企画には、「つながり」をうむ仕掛けが施されていた。






「例えば、スマートフォンによって音楽を聴く体験が変わったように、AとBがぶつかり合うことで、何か新しいことが起きるんじゃないかと思って。KTMという旗を掲げて、そこに集まってくれた人や遊びに来てくれた人たちが新結合するような、プラスアルファがあればいい」


星野さんが語るように、桐生は個性豊かな作り手の街だ。それが魅力でもあり、もしかしたら捉えづらさにもなっているかもしれない。だからこそ、KTMのように人と人とをつなぐ活動が求められている。



産地と若いクリエイターがつながる意義

国際ファッション専門職大学の平井秀樹教授も、その一人だ。平井教授は、大手アパレルメーカーのマーケティングディレクターやブランドマネージャー、マーチャンダイザーを歴任し、ブランドの立ち上げや戦略設計、新規事業開発に携わってきた。


平井教授のゼミでは、今後のファッション業界の変革を担う人材の育成を目指し、繊維の複合産地「桐生」で実習が行われている。学生は、桐生の伝統的な「ジャカード織」の仕組みを学んだり、昔ながらの機屋さんの技法を見学したり、生地の染め直しを行ったりと、織都に育まれた技術を実際に見て、体験することができる。



「私がマーチャンダイザーで就職したころのアパレルメーカーでは、産地での実習や研修がありました」と平井教授はいう。しかし、1985年のプラザ合意以降、日本のものづくりは急速に縮小し、生産拠点が海外に移っていった。それとともに、産地での研修も少なくなっていったという。


「桐生は、OEMの産地でもありますよね。高い技術力を求めて、国内外の名だたるブランドが桐生でものづくりをしている。しかし、それは十分に知られていません」


国内のものづくりに逆風が吹くなか、桐生のような産地に蓄積された技術を活かすことが必要だと平井教授は説く。


「ゼミの学生が産地を訪れ、技術に触れる。魅力を若い感性で捉え直し、国内外に向けて発信する。それが made in japan のものづくりや産地の活性化につながると考えています」と平井教授はいう。若いクリエイターと産地がつながることは、業界が課題を乗り越え、新たな発展を目指す第一歩だ。





ものづくりに興味のある人へ

毎年秋に開催される桐生ファッションウィークでは、KTMの協力のもと、国際ファッション専門職大学の学生による作品が展示されている。


第二回目となる2022年は、学生たちが自身の持ち物を染め直した「藍染めアップサイクル」、絹糸を紡いだ「アートヤーン」、「FASHION SWAP MEET(古着の交換会)」といった展示企画が行われた。


展示に参加した学生に話を伺うと、「長く続いた大切な技術とか、サステナブルなファッションとか、言葉としてはよく聞くけど、それが本当にある場所だなと思いました」と桐生の印象を語ってくれた。


学生をはじめ、KTMに出展しているクリエイターたちによる個性豊かな作品には、星野さんの言う「カオティックな魅力」という言葉がよく似合う。それぞれが個性を確立しながら、お互いにつながれる場所。足を運んでみると、お気に入りのお土産を買うだけではない体験ができるかもしれない。







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