自然とつながる街──田中商店、FORESTRIP

桐生に降り立つと、すぐに山や森、河原の空気が感じられる。鳴神山や根本山がそびえる梅田をはじめ、市内のどこを歩いても、登山や釣り、サイクリングといったアウトドア・アクティビティを楽しむ人々がみられる。


この街には、そんなライフスタイルを支えるお店や場所がある。人間と自然の距離を近づけ、自然を愛する人同士をつなぐ存在に目を向けてみよう。



親しみやすいアウトドア

夕暮れの街に車を走らせていると、暖かな光が差し込んでくる。表には薪が積み上げられ、大きなオーブンで焼き芋が焼かれている。ふと顔を上げれば、懐かしい書体で「田中商店」とある。




田中商店は、もともと地元の人々に愛された小さな生活雑貨店だった。高祖母がタバコ屋としてオープンしたお店で、その後曾祖父が薪と炭を販売、そして祖父の代で生活雑貨店として営業を始めたそう。地域に根付き、関係を結んできたお店だが、10年ほど前にシャッターを下ろすことになった。

そんな田中商店が、「アウトドア×コンビニ」という新しいコンセプトでリニューアルオープンしたのだ。


店内に入ると、地域の個人商店だった頃の親しみやすい雰囲気を残しつつ、奥に進むとアウトドアショップらしいスタイリッシュなお店になっている。カフェスペースもあり、ドリンクやサンドイッチ、ホットドッグが楽しめる。テーブルだけでなく、芝生スペースで羽を伸ばすことも可能だ。視点に高低差を生む店舗づくりがおもしろい。



お店を経営するのは、祖父母からお店を引き継いだ貝之瀬沙季さんと、そのパートナーである賢人さん。ふたりは梅田の自然、そして明治時代から続いた田中商店に惚れ込み、引き継ぐことを決意したのだという。開店資金はクラウドファンディングで集め、什器は当時のものをリメイクした。



アウトドアと聞くと、大自然のなかでのキャンプや山登りを思い浮かべる。しかし、何から始めれば? 道具ひとつをとっても何種類もあり、初心者は目が回ってしまうだろう。


だからこそ、田中商店のアウトドア商品は、ハイエンドの高級品というより、手が届きやすい入門的な商品が集められている。田中商店に行けば桐生でアウトドアが始められる、そんなセレクトだ。小さいお店の良さを活かして、お客さんの求める商品を仕入れているという。


貝之瀬さんご夫妻も、アウトドア好きのひとり。季節ごとのおすすめスポットや、キャンプ道具の相談にも乗ってくれる。ここは、桐生アウトドアの入り口なのだ。



お店には市内外のアウトドア好きが訪れる一方で、近所に住むお年寄りがふらっと立ち寄り、おしゃべりをして帰っていくことも。そのため、調味料やお菓子などの日用品も幅広く取り揃えているそうだ。地域で採れた新鮮な野菜の直販も、地域密着の証である。


桐生でアウトドアを楽しむならまずは、「田中商店」へ。アウトドアのグッズや魅力以上に、地域に溶け込んだような空気感や、地元ならではの情報を得られるはずだ。





大自然のなかのドッグラン


「夏はそこの川を犬が泳ぐんですよ。飼い主さんも一緒に泳いで、犬も人も気持ちよさそうですね」。こう話すのは、会員制ドッグラン「FORESTRIP」のオーナー・吉田聡子さん。


田中商店から梅田の山を少し上がったところにあるFORESTRIPは、眼前に立派な渓谷が広がり、遠くでは鹿の鳴き声が聞こえる。ここは、大自然に囲まれたドッグラン。人間の便利さではなく、犬の心地良さが第一に考えられている。



吉田さんは、2015年に梅田の森と山に惹かれ、移住を決意。当初からここでドッグランをしたいという構想はあったものの、具体的な形まではイメージできていなかった。この地で出会った方々とのつながりのなかで、現在のFORESTRIPのすがたをつくりあげてきた。



数ヶ月に一度開かれるdog behaviorist(犬の行動に関する専門家)田中雅織氏を招いての勉強会もそのひとつだ。日本でみられる犬のしつけは、警察犬文化の影響で、いまも非常に厳しいものが多いという。そこで吉田さんは、体罰に頼らないさまざまな手法を学ぶ機会をつくっている。


愛犬家にとって、犬のしつけについて気軽に話し合える場所は意外と少ない。獣医に相談するほどでもないし、コロナ禍による公園の利用制限が進んだいま、情報交換もままならない。


FORESTRIPは桐生の中でも街中から離れ、携帯電話の電波が届かない山の中にある。そんな大自然の中だからこそ、優しいだけではない自然のむきだしの姿を味わい、吉田さんや会員の方々とのかかわりのなかで、飼い主同士の交流ができる。


ドッグランを通じて、犬と自然、人間がかかわるコミュニティが生まれているのだ。



自然がつなぐ関係

──さまざまなサービスが展開され、あらゆるモノ / コトを用意してくれる都市とは違い、自然はなにもしてくれない。アウトドアを愛する人であれば、山や川で起こる予想外の出来事を知っているだろう。犬と長年付き合っている人であれば、動物が抱えるさまざまなトラブルを知っているだろう。




桐生は自然が近い。そう感じさせてくれるのは、田中商店やFORESTRIPのように、人間にはコントロールしきれない自然との付き合い方を、ともに考えてくれる場所があるからだ。ずっと自然とともにある桐生には、アウトドアを愛し、わたしたちと自然をつなぐ人がたくさん暮らしている。