Tradition & Architecture

​いまを生きるレトロ建築

ここには、すべてが残っている

バタン、バタンと職人が織り機を操る心地いい音が聞こえる。いまも絞りにこだわり、手染めで仕上げる。

創業から100年、いまなお伝統的な手法で美しい「桐生織」を生み出しているのが泉織物だ。泉織物の4代目・泉太郎さんは、自身も意匠から下絵描き、縫い、括り、染色、糸解き、整理仕上げといったすべての工程に通じた職人だ。とりわけ、異なる絞り技法を二重三重に染め重ねる手法は独自のものである。

01-201116_1528.jpg
02-201116_1600.jpg

泉さんに桐生の織物の特徴について尋ねると「ここには繊維産業の技術がすべてある、歴史もすべて残っている」、自信を持ってそう答えてくれた。泉織物は、先人たちが残した技術を余すことなく継承し、発展させながら、現代的な意匠を施した一点物の和服をつくり続けている。

03-201116_1647.jpg
04-201116_1689.jpg

織物の技術とともに、桐生には歴史的なレトロ建築もたくさん残されている。たとえば、桐生の繊維産業のランドマークともいえるギザギザした三角屋根、通称「ノコギリ屋根」の工場。1907年創業の後藤織物はそうしたノコギリ屋根の工場であり、登録有形文化財にもなっている。その一方で、現役の帯メーカーでもあり、その製品は百貨店や有名小売店を中心にひろく販売されており、映画やドラマなどでも衣装として提供されている。泉織物と同様に、伝統的な技術を持ちながらも、新しい分野で戦うクリエイティブ・カンパニーでもあるのだ。

05-201117_2377.jpg
06-201117_2290.jpg
​いまを生きるレトロ建築

桐生のレトロ建築は、いま現在も使われているところに特色がある。有鄰館(旧矢野蔵群)は、歴史的な建造物が立ち並ぶ本町二丁目にある11棟の蔵群で、江戸時代から大正時代にかけてつくられたもの。その姿は煉瓦蔵、木造蔵などさまざまで、かつては酒・味噌・醤油の醸造や保管のために使用されていた。

しかし、現在では周辺の近代化遺産を後世に保存するための文化拠点として、観光案内所やアート作品の展示、コンサート会場など多様な用途で使われる交流スペースになっている。隣に建つ築100年の古民家・食事処「近江屋喜兵衛」では、本格的な洋食を楽しむことができる。

07-201117_2448.jpg
08-201117_2584.jpg

街の中心部にも、レトロでありながらいまも活用されている建築が数多く存在する。大正後期に建てられた「金善ビル」は、国登録有形文化財で、1階の天井高が5mと非常に高く、独特な白の塗壁が特徴的な建造物だ。現在では、刺繍工房とセレクショップ・KINARIに生まれ変わり、全国からセレクトした生活雑貨を中心に、桐生織の小物、今治タオル、江戸切子グラスなどのアイテムが販売されている。老舗刺繍会社・ユニマークの直営店でもあり、店内に常設されている刺繍ミシンで買った商品に加工を施すこともできる。

複雑な歴史と多様性

長い街の歴史を生きる建築には、複雑な歴史を持つものもある。「OKIYA GUEST HOUSE & TAPAS BAR」はもともと、かつては300人以上いたという桐生芸者の置屋だった。築100年以上とされるこの建築は、桐生市出身の高橋裕子さんとアルゼンチン人のガブリエル・プラウルさん夫妻によって、懐かしさとモダンな雰囲気が融合したゲストハウスへと生まれ変わった。プラウルさん自慢の地中海料理を楽しめるタパスバーも併設されている。

09-201118_3752.jpg

桐生のレトロ建築は、ただそこにあるだけではない。この街に暮らす人々の手で、当時の面影を残しながらも、いまを生きている。

craft_バナー.png
landscape_バナー.png