LANDSCAPE
街の中で自然を楽しむ
山ストールで通勤前にトレッキング
──まだ朝日も昇り切らない早朝から、山間のカフェ『AZM BASE』はお客さんで賑わっている。彼らはみな地元の登山愛好家で、毎朝通勤前に吾妻山を一歩きするのが日課なのだという。山の澄んだ空気をいっぱいに吸い、リフレッシュした状態で一日が始まる。地元・桐生ならではの贅沢なルーティンだ。
『AZM BASE』にはカフェ以外の顔がある。登山やキャンプで使える「山ストール」を制作するアウトドアストールブランド『PRIRET』だ。桐生織の伝統技法「風通織」を応用し、上質な肌触りと高い機能性を実現し、登山ファンからの支持も厚い。
代表の上久保匡人さんは桐生の出身。しかし、山に目覚めたのは、東京に出ていた大学時代だった。登山用ガジェットのかっこよさに惹かれ、次第に山の虜になっていった上久保さん。社会人経験やカナダでのワーキングホリデーを経て地元桐生に戻ると、幼なじみとともに桐生織を活かしたアウトドアグッズの制作にチャレンジした。そして、小さい頃から傍にあった吾妻山のそばにカフェ兼事務所を構えたのである。
暮らしのなかにある自然
上久保さんも惚れ込んだ吾妻山は、駅から徒歩わずか20分ほどで登り始められる標高481.1mの低山。山麓
に整備されている吾妻公園には花菖蒲園や蓮池が広がり、様々な種類の花菖蒲や紫陽花、睡蓮を歩きながら
観賞できる。スリリングな「男坂」と比較的登りやすい「女坂」。どちらかのルートを選び登り始め、1時
間半ほどで山頂に辿り着く。桐生市街を一望すれば、この山が市民から愛される理由がわかるだろう。
桐生の暮らしに欠かせない自然は、緑だけではない。日光市足尾町の山中から群馬県と栃木県をまたぐように流れる渡良瀬川は、みどり市から桐生市に入ると川幅が広がり、穏やかな姿に。河原沿いにはジョギングやサイクリングを楽しむ人々の姿があり、河川敷のグラウンドからは子ども達の掛け声が聞こえる。
市内には渡良瀬川の支流・桐生川も流れる。源流林をはじめ梅田の自然が美しく、2019年には市民の憩いの場にと「梅田台緑地公園」が整備された。きれいな芝生と大きな遊具が用意され、幅広い世代が思い思いにのんびりとした時間を過ごしている。隣接する梅田湖には、ワカサギ釣りやカヌーを楽しむ人の姿もある。
桐生の雄大な自然に触れて
渡良瀬川の上流に向かって走れば、一気に自然は深くなり、季節を映した木々や渓谷の急流が私たちを誇らしげに迎えてくれる。そんな山間を縫って桐生駅から北東へ伸びる鉄道路線・わたらせ渓谷鐵道。「わてつ」の愛称で親しまれる鉄道の大きな車窓から、春は花桃、夏は新緑、秋は紅葉と、旬な景色が視界いっぱいに広がる。趣のある木造の駅舎、手が届きそうな距離に望む滝。沿線の空気をそのまま感じられる、窓ガラスのない「トロッコ列車」。景色を彩るコラボレーションを写真に残そうと、プロ・アマを問わず多くのカメラマンが足を運ぶ。
──桐生の自然は日常のなかにある。しかし少し分け入れば、厳かで神秘的な雰囲気を全身で感じることが
できるだろう。