須裁株式会社
心地良い織機の音が響く工場で、ジャカード織の可能性を追求する。──須裁株式会社
住所
群馬県桐生市東五丁目4-9
営業時間
平日8:30-17:30、土8:30-12:00 ※ 第2.3土曜・日曜祭日定休
営業期間
平日8:30-17:30(工場営業時間に同じ)、土日13-18(アトリエショップCharrm開店時間に同じ) ※要予約
料金
無料
内容
工場見学
連絡先
0277-45-2750 または HP内でのお問い合わせフォームより
桐生に三連の鋸屋根を構える、須裁株式会社。明治39年の創業から変わらず、ジャカード織りの織物を作り続けている。
工場の中へ案内していただくと、さまざまな音に迎えられる。ガシャンガシャン、ダダダダ……と音は様々だ。代表取締役を務める須永康弘さんによれば、この音は機械によって違うとのこと。新しい織機と伝統の織機の共存する工場ならではの響きだ。
製品開発のリアリティを強く感じさせてくれる響きに囲まれながら、須永さんに工場を案内してもらった。
ジャカード織の可能性を追求する
「本社工場では、主に試作・開発品を手がけています。注文を頂いてからの量産は、主に設備装置を預けている協力工場が担っています。織物は工程が多い性質上、昔からこういう分業制で仕事をしてきたんですよ」。
須裁株式会社では、伝統を引き継ぐだけなく、新しいジャンルの開発にも力を入れている。「今は金属糸や、和紙の開発もしているんです」。工業用途の金属シートや、着ることができる和紙を使った生地開発だ。開発中の和紙は、工場で織っている状態と、特殊加工を施した完成状態では全く異なるという。実際に触らせていただく。すると、特殊加工前のザラザラした和紙の状態から、加工後は柔らかい感触や質感へと変化していることに驚いた。
これらは、再生可能な和紙を利用した、サステナブルなプロダクトづくりの挑戦だ。工場内に所狭しと並ぶ織機はジャカード織の新しい可能性を拡げるために働いている。
「ジャカード織を使うことの特長は、より複雑な模様を織ることができる製法にあります」と須永さんは教えてくれる。生地に複雑な模様を表現するとき、織りだけでは難しいため、生地に上からプリントを施すことが多い。しかしジャカード織であれば、複雑な模様であっても表現できる。
更に、桐生産地は様々な性質の糸を使用した「複合素材」の織物を得意としている。伝統的な織物の産地で糸の性質を熟知した職人技による、桐生の得意とする製法だ。
ジャカード織の特長、そして桐生産地の得意とする複合素材。これらによって自然な立体感と質感があり、個性的で高級感のある生地を作り出すことができるそうだ。
たしかに、工場内の生地は伸縮性があったり、美しく細かい模様があったり。どの生地もそれぞれのユニークな魅力が感じられた。
織物の良さを伝えること
──しかし、こうした開発・生産の現場はなかなか人の目に触れることがない。須永さんは、桐生の織物が抱える課題は、生産現場の技術・素材のこだわりが知られていないことにより、桐生織物における価値が伝わりづらいことにあるという。
近年では大量生産・低価格の海外織物が普及し、日本の織物は苦戦を強いられている。消費者もこれまで以上に値段を気にするようになった。実物を見ずにインターネットショッピングで買う人も多い。そんな時代だからこそ、「顧客に生産現場を知ってもらい、素材を手に取ってもらうことが大切だと思うんです」。直接見てもらえば、桐生の織物のこだわりや生地の良さが伝わるはず──。
そんな思いをもって、須永さんは2019年に工場の一角をリノベーションし、展開するブランドのアパレルショップを開設した。
ショップには現在展開している3つのブランドが置かれている。デザイナーの塚本未歩さんが手がける「Charrm」。サステナビリティを追求する「Jacquard Works」、社員たちが自由な発想のもと実験的なプロダクトを制作する「SUSAI Lab.」。どれも研究を重ねつつ、こだわりの一品を提案するブランドだ。
織物本来の良さと、目を奪われるデザインを兼ね揃えた商品に思わず胸がときめく。そうして話を聴きながら、店舗内には織機の働く心地良い音が響き渡る。店舗と工場が同じ建物内に入っているからこその特長だ。
「足を運んでもらったお客様に現場を感じてほしいんです。だから、ジャカード織を作るときの特徴的な音が聴こえる設計にしました。目で見て、音で聴いて、五感で体験してもらう。桐生の織物の良さを体感してもらえれば、手にとっていただく機会も増えていくのかなって」。
地道な「伝える」活動で桐生織物のファンを増やし、桐生地域一帯の活性化につなげる。それが須永さんの考える新しい工場のあり方だ。
生産現場のリアリティに触れるオープンファクトリー
須裁株式会社では、ショップだけではなく、工場を開放するオープンファクトリーの取り組みがおこなわれている。
オープンファクトリーでは工場の中を案内し、須永さんや職人の方々が桐生の織物や技術の特徴、こだわりを教えてくださる。織機の音を聴きながら現場のリアリティに触れられる貴重な機会だろう。実際に案内を受けた人は「こんなにも工程がたくさんあり、複雑だとは思わなかった」と、改めて桐生織物が持つ価値を実感するという。
生産現場を知ることで、本物の価値を知ることができるオープンファクトリーへ、ぜひとも足を運んでみてほしい。