絹遊塾工房 風花
「自分だけの特別」を作る楽しさを知る──絹を使ったサステナブルなものづくり体験「絹遊塾工房 風花」
住所
群馬県桐生市東久方町1丁目1−55
営業時間
10:00~17:00 火曜日定休日
営業期間
常設
料金
空間使用料1500円/1日(絹糸代、持ち込み料金は別途)
内容
手織り、染め、桐生ファッションウィーク期間は特別メニューあり
連絡先
0277-32-6387
織都・桐生を象徴するノコギリ屋根の建物たち。なかでも桐生駅から車で約10分、桐生天満宮のほど近くにある赤煉瓦造りのノコギリ屋根は人目を引く。大正9年に織物工場として建てられたという建造物の一角に、「絹遊塾 工房風花(かざはな)」はある。
風花では、座繰りや糸紡ぎなど絹糸を作るところから、精練、草木染め、手織りまで、織物づくりに関わる様々な工程を工房内で行っている。さらに、靴下や絹ボディタオル、草木染めストールなど作った作品を販売しているほか、手織りや染色の体験、障がい者施設でのボランティアまで、その活動は多岐に渡る。
特に注目したいのは一年を通してできる「ものづくり」だ。
「うちでは、できたら自分が欲しいものを作ってもらいたい。自分で作ったものって愛おしいじゃないですか。そういう作る喜びを感じてもらいたいし、なにより観光に来て愛おしい物を作って帰って、誰かに褒められたらもう一度楽しいと思うんですよ」と代表の板野ちえさんは言う。
ものづくりへのこだわりや好奇心が随所に感じられ、刺激される場所
風花のショップスペースは入り口にある一角のみで、その奥には糸づくり、染色、機織りができる工房が広がっている。確かに、ここは「作る」ための場所だ。
板野さんが独立したのは15年ほど前。実家の絹糸屋で仕事をするうちに、靴下やストールを作るようになったのがきっかけだったという。「実家では工場さんを回って、糸を作ってもらっていました。職人さんと話すうちに、自分でも糸を作り、染めはじめてしまった」と笑う。
工房の中は、板野さんのこだわりやものづくりへの好奇心が随所に感じられる。
京都の職人さんが誰でも動かせるようにと作った手動の機織り機や、国内での稼働が珍しくなった糸を紡ぐ「ガラ紡機」、経糸(たていと)を整えるための「回転式整経手織り機」などの希少な機械のほか、染色に使う多種多様な植物、材料として「使えない」と判断された選除繭(せんじょけん)などの素材が所狭しと並んでいる。
「こうやったらどうなるんだろう?」、「もっと違ったやり方でやってみたい」という試行錯誤が積み重なってできた場所、という印象だ。「自分がやって面白いと思ったんだから、誰かにとっても面白いんじゃないかと思うんですよね」そう板野さんは言う。たしかに、並んだ道具や素材、作品を見ていると、自分の中の「やってみたい」がくすぐられる。
出会う、だけでなく「つくる」喜びを体験できる
風花では、オープンファクトリー期間中だけでなく、誰でも工房を借りられ、好きなものを染めたり、作ったりすることができる。しかも、価格は空間使用料1日1500円と破格だ。
「機械の使い方は教えますけど、あとはどういうものがほしいか自分で考えて、好きなものを作ってもらえればいいと思っています。ストールとかおくるみとか1日でできちゃいますよ」
草木染めの絹糸を使い、たて糸も自分ではり、たて糸もよこ糸も自分色の絹ストールを1日で作る。これは、風花だけでできる経験だ。この日来ていたお客さんも、思い思いの素材で、実験するように楽しんで作っている姿が印象的だった。
「作ったものを売るより、私が面白いと思っているプロセスを楽しんでもらいたいんです。だから私が作ったものを欲しいと言われても、『自分で作ったら?』って言っちゃうんです(笑)。その代わり、作ることの楽しさを提供しているという自信はあります」
素人でも、自分が本当に欲しいものを作れてしまう。ときに予想外の仕上がりもあるが、それも含めて、なかなか味わえない贅沢な体験だろう。
唯一無二の作品づくりを楽しもう
工房内には、板野さんが作った作品の数々が並んでいる。バラ科の植物や蚕の糞まで、様々な自然由来の素材で染められた糸のおかげか、板野さんの作品は優しい風合いのものが多い。
ふと目に止まったのは、化学染色した黒と草木染めの混ざった色合いが個性的なネックウォーマー。色の組み合わせに加えて、選除繭(せんじょけん)を使った不揃いな糸の風合いが、まさに一点ものといった雰囲気だ。
思わず「買えませんか?」と聞きそうになった。しかし、「買うよりも作ってほしい。自分で作ったものって特別だし、きっと楽しいから」と言う板野さんの前で、野暮だと思い、飲み込んだ。
美しい生地に出会うだけでなく、「自分だけの特別」を作ることができる。風花は、そんなものづくりの喜びに開かれた場所だ。ぜひとも直接足を運び、唯一無二の作品づくりを楽しんでほしい。